2012年12月21日金曜日

読書が大切だと、いまさら大声で言う理由

以前勤めていた会社で、受験生に新聞が役に立つ、というキャンペーンを担当していたことがあります。

新聞から出題した大学と、採用された記事を調べ、日常的に新聞を読むことが直接受験に役に立つ、ということを訴求するだけでなく、18歳(以上)の人間の知的レベルを審査する試薬として新聞が採用されるのは、社会人の入り口に立つ人には新聞を購読することが要求されているからである、ということも強調しました。

正確な日本語、バランスの取れたオピニオン、美しい日本語に日常的に接することが大事である、というのが売り文句でした。

宣伝部員ですから、自社商品の長所を挙げて広告を制作するのは当然のことです。

しかし、内心には忸怩たるものがありました。

本を読まない人間がいくら新聞を読んでも役に立たないと思っていたからです。

報道というのは、基本的にストックフレーズでできています。
そして、ストックフレーズの蓄積は、視点の固定化につながります。

視点の固定化=思考の固定化です。

それを防ぐには、自分自身が柔軟な思考の訓練を怠らず、報道のストックフレーズを単なる情報として坦々と処理し、是々非々で評価できるようにならなければいけません。

柔軟な思考の訓練は、「役に立つ」ことを勉強することからはなかなかできることではありません。

「すぐには役に立たないこと」をどれだけ溜め込んでいるか、それが柔軟な思考の訓練につながります。

ハウツー本に慣れてしまうと、何が書いてあるのかわからない本を読むのがとても苦痛です。
いい年をして哲学の本など読むと、脳から首筋、肩、腰までバリバリになります。

「直接役に立たないこと」、「一見無用に思えること」をとりあえず教えておくことは、本来初等教育や中等教育の役割だと思います。
大学でもそのような学問をしておくことはとても大事だと思います。

小学校から英語やパソコン、果ては株式投資など教えている暇があったら、国語=母語をきちんと教えることが一番大事です。
まずしっかりしたインプットツールと、自己を表現するアウトプットツールを持たせてあげるべきです。
極論すれば、国語の授業は、字と文法を教えたら、あとは多種多様な読書にだけ充てればいいと考えています。
作文ぐらいはさせてもいいけど、「詩作」などは必要ありません(丸谷才一さんもそうおっしゃっていました)。
余談ですが、東京メトロ車内で、あの「詩」もどきを見ちゃったときの苦痛はいわく言いがたいものがありますね。

通勤電車内の雑誌の吊り広告は、日本人の知性に深甚な悪影響を与え続けていると思いますが、それ以上にストックフレーズの蓄積が思考の固定化という社会への悪影響につながるという危機感を抱くにいたったのは、ネット上に報道の断片がコピペされることにより、ストックフレーズの拡大再生産が加速度的に増加したからです。

例えば、ネット右翼の短絡性、視野狭窄などが一例に挙げられると思います。

かつて左翼は理論武装のために膨大な書物を読み、あえて言えば、その断片を振り回しておりました。
そのため右翼側でも、国体についてなど、深い思想的訓練が要求されていたのです。
確かにストックフレーズを街宣車でがなり立てるだけの輩もいましたが、それだけではありませんでした。
なのに現在では、一部の政治家までがネトウヨレベルに落ちぶれているというのは、保守にとって危機的状況だと思います。

かつて企業や官庁は、大学までは実用的な勉強をしていないことを前提に、潜在能力に期待して新入社員を定期採用し、就職後に研修することによって戦力化していました。
今は企業などにその体力がなくなってしまい、即戦力を求めるので、学生側もダブルスクールで資格を取ったりと、大人になってから「すぐに役には立たないこと」を学ぶ余裕がいよいよなくなっているような気がします。

しかし、そうやって「すぐ役に立つこと」ばかり詰め込んでいると、「想定外」の事態の前では立ちすくむしかありません。

危機管理を行う者が「想定外の事態でした」と言うことは、想像力の欠如を露呈していることであり、すなわち文化の問題なのです。

危機管理につながる想像力を伸ばすには、経験に拠るところが一番なのはもちろんです。
しかし、一人の人間ができる経験には限りがありますので、それを補うのに一番効率がいいのは読書なのです。

絵画展や映画など、いろいろ行きたいのは山々なのですが、場所の移動や、昼間の一定の時間などを必要とするので、読書が一番手っ取り早いです。

そういう読書会形式などの研修も企画しております。

ところで、SCP経営研究所のSCPは、元々Sunakawa Choyo Patent officeからとったものです。
けれど、SCPは「エスケイプ」につながります。

トラブルシューティングや、コールセンターの経験を生かした危機管理(防止)のコンサルティングも行っています。

ちょっと聞きたいことがあるときお役に立てる会社ですので、お気軽にお声をおかけください。





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